後書 Afterword
本書に、生を成すものの「答え」は載っていない。
個と周辺との関わりを、植物の形態と機能との関係性に見ては生の本質を探る手がかりとしてきた撮影者が、ここに謎解きを置く。読み手は扉を開け、まるでつかめない実体に分からなさを抱えながらも読み進めることで、見えているものの解像度が少しずつ上がっていく。こうして読み手自らが思う答えを手繰り寄せるような書物とした。
謎解きの入り口となる表紙に「写真未満」を示唆したネガ様のイメージと、それにかかる霞。始まりの視界は狭く、だがかろうじて知覚に至る像。そこから徐々に、広がっていく意識を体感するような構成とした。
趣旨に沿う形での写真の再現性はもとより、ページをめくる指先の触覚が読み取る紙の質感もまた、生をなぞるひとつの要素ととらえ、自然な荒さのある印刷用紙を本文に用いた。左から右へ流れる時間軸の存在をほのめかすために、左開き・横長の仕様とした。見開いた状態が一本の線となり、意識が次項へと引き継がれることで、時の連続性を再現することになるよう、中綴じ製本とした。生をつかさどる水の「青」と、撮影対象である植物の「緑」を掛け合わせた緑青を、小口と題字に用いた。
思考に取り込まれた周辺の因子が、個に作用する。読み進める過程もまた、生を紡ぐ行為となる。
All photographs and text © 2025 Azusa Kumagai